合宿免許と高専生.張り裂けそうな嫌悪感.
ついこの前私はとある教習所で普通車MT免許(仮)を取得した.
そんなことはどうでもいい.
そこで出会った高専生が私と,いや世間とかけ離れた感性を持ち合わせ,自身の異常行動に対して無頓着の無自覚型狂人だったのだ.
覚悟して読んで欲しい.
私と同じ不快な目に一緒に遭いましょう.
教習初日,一人で来ていた私は当然入所説明会にも一人で出席した.
その私の後ろに着席した男,それがその高専生である.
今後この高専生のことは「ソイツ」「コイツ」などと呼ぶ.あだ名を考えるだけで腹立たしい.
私はその高専生に話しかけた.いや,話しかけてしまった.
最初にして最大のミスである.
どうやら私よりも2歳若く,とある高等専門学校に通っているらしい.
説明会が終わると,合宿生は各々宿泊している寮に帰るのであるが,私とソイツは寮が異なり,別々の帰路を辿った.
すると数時間後
「〇〇さーん!」「〇〇さん居ますかー!」
廊下に私を呼ぶ声が轟いている.
AirPods Proのノイズキャンセリング機能を貫通する爆音で私を呼んでいる.
私が部屋から出ると
「あ!いた!ご飯行きましょ!」とソイツが言うのである.
突然の出来事に私もYesと答えるほかなかった.
この時点で気が付くべきだった.ソイツに潜む狂気性に.
一見「無邪気で人懐っこい後輩」のように思えるが,そうではない.
私がソイツに伝えたのは「宿泊する寮が異なる」という情報のみである.
つまり,「どこの寮のどの部屋に宿泊しているか」は伝えていないのである.
しかし,ソイツは私を見つけた.なぜか.
「誰かから宿泊部屋番号を聞いたから?」
否
「虱潰しに各寮で私の名を叫んで行脚した」からである.
私の泊っている部屋は二階の奥のほうだったので,少なくとも同寮の一階の連中には私に対して「爆音のヒト型スピーカーに名前を叫ばせる狂人」という印象を抱かせてしまったかもしれない.
とにかく当時の私にはソイツの狂気性に気が付かなかったのだ.
それからソイツと飯を食うわけであるが,そこでもソイツは常人との次元の違いをまざまざと見せつける.
残すのだ,飯を.
しかし,私はソイツの異常性に未だ気が付かない.
(初日だし,飯の量もわからんよな.小食なんやね)
などとアホ面で酢の物を食いながら考えていた.
しかし,その後も毎食毎食ソイツは飯を残す.
その教習所では業者から届くワンプレートのおかずに加えて,自分で米をよそい,味噌汁を注ぐシステムを採用している.そのためおかずの量は不変であるが,米と汁の量は可変である.
さらに言えば,食わなくてもいい.「俺は米とおかずは要らねえ.味噌汁だけ飲むぜ」というのも可能なのだ.
しかしソイツはなぜか毎度,成人男性が食う量をこしらえ,女児が食う量を残して捨てる.
食おうが食わまいがいずれ処分されるということは理屈ではわかっていても,目の前で知り合いが飯を捨てていると多少精神にくるものがある.
そんな生活がしばらく続いた.
友人も多少増え,ともに食事するメンバーは私とソイツ含め5人にまで膨れ上がった.
そんな時期のとある食事中.私は決断した.
この飯残し妖怪に事実を突きつける.正直私以外の者も言わないだけでハチャメチャに感じていた不快感だったのだ.知り合って1週間もしないうちに我々は完璧なアイコンタクトを身に付けていた.なるべく角が立たないように飯を残すなと伝えるぞ.
「ごはん,減らしたら?」
完璧だ,提案という皮を被った忠告,いや警告だ.
周りの人間も私のことを人智の権化であるかのような眼差しで見つめる.
ソイツは一応「飯を残すな」というニュアンスを汲み取ったようだ.
少しの沈黙の後こう続ける.
「俺は人並みに飯は食える.しかし,食うのが遅いため皆を待たせてしまう.なのでしぶしぶ飯を捨てているんだ」
度肝を抜かれた.
コイツは”ホンモノ”だ.その場の全員が感じた.
気の遣い方がバグっている.
普通そういう時は「食べるのが遅いので先に行っててください」と言うのだ.
仮にこの返事が「普通」でないとしても,飯を捨てるという選択肢は「普通」になりえない.
ギャルゲーの禁忌肢とかじゃないと納得できない.バッドエンドRTAかよ.
ソイツはあくまでも「待たせるわけにはいかない!おっしゃ捨てよ!」というマインドが通常営業なのである.
強大な敵と対峙した時,コイツはきっと「俺を置いて逃げろ!」とは言わない.「俺はここで戦いをやめる!」と言って尻尾を巻いて逃げ帰るのだ.
その日の食事は1人を除く全員が唖然とした表情で幕を閉じた.
ある日,教習所の味気ない食事に飽きた我々は近所のスーパーマーケットへと赴いた.
そこで各々カップ麺やお菓子などを買い,無機質な寮生活に彩りをもたらそうとしていた.ソイツが想像以上に会計に時間がかかっていることに,その場の全員が一抹のイライラを抱きながらも全員が買い物を済ませた.
そんな中ソイツが「薬局寄っていい?」と持ち掛けてきた.
スーパーと薬局はそこまで離れていなかったので我々も快諾した.
ほどなくして薬局から紙袋を持ったソイツがニッコニコで駆けてきた.
何を買ったのか尋ねると,ソイツはおもむろに紙袋からTENGAを取り出した.全員がポカンもポカンである.
TENGA.そう男性の自慰行為に使われるアイテムである.
ソイツはどうやら「合宿免許で自慰に耽るのは当然の行為であり,それのためにTENGAを購入することは至極普通の感覚である」という理論を持ち合わせているらしい.
このような猥談で塗り固められた独演会がその場では急遽開かれた.
カスのTEDである.
価値観がこうも違う人間が目の前で,嬉々として下劣な言葉を吹いて回っている事実に恐怖すら覚えた.
別に自慰行為を行うことはどうでもいい.
寮という共有スペースにおいて,他の人間の気持ちを推し量らず,自分勝手に快楽に至る感性が信じられないのである.
また,仮にそういう行為をしたのであれば言わずに黙ってろ.
そして後から判明するのであるが,ソイツはどうやら寮の共用の風呂で致していたらしい.
狂っている.心底別の寮で良かったと思った.
お風呂で致すと,たんぱく質が変性し髪の毛などを巻き込んで配管に詰まる場合があるのである.誰が処理すると思っているのだろうか.寮の管理人は非常に可哀想である.
寮で自慰を行うこと,それを他人に伝えることは少し変ではないか,と尋ねたが当の本人はピンと来ていない様子であった.
その件以来,コイツに関する印象は
「飯を残すやばいヤツ」から「異常な感性に身を蝕まれた可哀想なヤツ」へと変容した.
嫌悪は一定のラインを超えると悲哀に変わるのだと実感した.
それから数日後,また食事を共にするわけであるが,コイツの食事の残し方に法則性があるとわかった.
ワンプレート,ごはん,味噌汁を用意し,そのすべてを半端に残す.
どれか一つを完食することは稀である.
そして,なぜか水を2杯用意し,食事中に両方のコップに口をつけた後,両方合わせて一杯分くらいを残す.
その残した水を残した味噌汁に流し込み,一杯分の冷味噌汁を作成し,処分用のポリバケツに流し込む.負け確定.カスのエグゾディア.
意味が分からないかもしれないが,それはコッチも同じ感想である.
なぜ2杯用意するのか.なぜ1杯分しか飲まないのか.なぜ味噌汁とドッキングするのか.
その疑問は今現在も解決に至ってはいない.質問するのが怖かったからである.
仮にコイツを敵に回した場合,どんな目に合うのかが想像できなかったからである.
我々はたった一人に手も足も出なかったのである.
ただ,コイツはごくわずかな確率で,食事を完遂する.
プレート,茶碗,汁椀,コップに至るまでが空になる.
そういう事態が発生すると,ソイツは決まって
「な?俺は食おうと思えば食えるんだ」
と言いながら常軌を逸したドヤ顔をかましてくる.シンプルにムカつく.
その他様々気にかかることはあったが,なんやかんやで我々は卒業検定を明日に控えることとなる.
その最終日前日,我々はその日の夕食に定食屋を選んだ.
いわゆる決起集会ってやつである.
最後の晩餐ということもあり,皆が張り切っていた.
各々が唐揚げ定食や親子丼などを頼み,その日の食事を存分に楽しむ手はずが整えられていく.
さて,肝心のソイツは何を注文するのか.
ソイツはメニューを指さし,店員に伝える.
「特盛海老天丼1つ」
アホなん?
本当に思考回路が読めない.
国営の研究所とかに「狂人」のサンプル個体として送付してやりたい.
どうしても海老天丼が食べたくて,特盛しかサイズが無いならわかるが,お前が最後までじっくり舐め回すように見ていたメニュー表にはきちんと並盛の海老天丼が存在する.それを見ていないのか,自分自身を高く評価しているのかはわからないが,コイツは特盛海老天丼を頼んだ.
ほどなくして各自注文した食事が運ばれてくる.
その中でひときわ異彩を放つどんぶりが一つ.
無論,特盛海老天丼である.米が3合くらいあるように見えるし,ドデカ海老2尾がどんぶりからはみ出でいる.
その前にはほぼ確定で食事を残す男が鎮座ましましている.
ここから先の展開は言うまでもない.
皆が食事を完食し,温かいお茶を飲み一息ついたころ,海老天丼は60%ほど残されていた.海老すら残っている.もはや誰も驚かなかった.コイツが「特盛海老天丼1つ」と言った瞬間,一人を除いてその場にいた全員がこの展開を予測できたからである.これは羽生善治でも読めまい.我々は残飯の藤井聡太である.
しかしわざわざ指摘はしない.明日で卒業である.揉めるのも良くない.
我々は6割天丼に気が付きながらも,談笑に従事した.
するとソイツは我々の目を盗んで6割天丼の蓋をそっと閉じた.コイツの天丼は我々に対しミスディレクションを行ったのだ.最悪の黒子テツヤだ.
中身が確認できなくては指摘すらできない.
コイツはこの場で「シュレーディンガーの6割天丼」を完成させたのだ.
量子力学をもってして,我々は完全に封じ込まれた.
関係あるか.頼んだもんはちゃんと食えよ.
それが店に対する誠意だろうが.
残したくせに「ごちそうさまでした」って言って店を出るな.お前にそれを言う権利は無い.
まぁ,そんなこんなで卒検に合格し,晴れて卒業になるわけであるが,正直コイツとは二度と関わりたくない.
これらの出来事はたった2週間強の期間で起こったものである.
長年の積み重ねで価値観のズレが生じるのは当然であるが,たった17日間でここまで見せつけられるとこちらとしても参ってしまう.
そしてどことなく感じていた高専の「世間とズレた尖った理系」というイメージに拍車がかかってしまった.
私の中の高専生のイメージがコイツ中心に形成されてしまう.
嗚呼,虎杖悠仁くんに会いたいな.
さて,まとめに入るが,私は合宿免許を人に勧めない.あまりにもギャンブル要素が強すぎる.
合宿免許は新たな友人と,濃密な時間を過ごせるというのがウリなのかもしれないが,私が感じた時間は濃密というよりももっとドロドロとした,ヘドロのようなグリストのような吐き気の伴うものであった.
最後にソイツの名誉のために言っておくと,ソイツはMT車の運転は非常に上手い.以上.
また,ソイツ以外はめちゃめちゃ良いやつだらけでした.
一時の人間ギャンブルに興じたい人は合宿免許,どうでしょうか?
今回はこのへんでお暇します.さようなら.
現住所と住民票記載の住所が別だから本免許まだ取れてないんだけど!!!!
土日祝も営業しろ!免許センター!!
その他様々気にかかること